補助教材事件、市教委へ「申入書」

                                                          平成13年11月12日
                              申  入  書
 岡山市教育長
   玉光源爾  様
                                                      市民オンブズマンおかやま
                                                              代表 東骼i

 私ども「市民オンブズマンおかやま」は、平成10年6月4日、岡山市情報公開及び個人保護に関する条例に基づいて、貴委員会に対し岡山市内の公立小学校3校の5年生の平成9年度の補助教材に関する帳簿及び伝票の開示請求をしたところ、貴委員会からこれらの文書は公文書ではないとの理由で開示を拒否されたため、平成11年2月26日、開示拒否処分の取消を求めて岡山地方裁判所に提訴しました。
 
 岡山地方裁判所は、平成12年6月20日、補助教材に関する帳簿及び伝票は公文書であると判断し貴委員会の開示拒否処分を取り消す判決を言い渡しました。
 貴委員会は判決を不服として控訴しましたが、広島高等裁判所岡山支部は、平成13年7月12日、貴委員会の控訴を棄却する判決を言い渡し、判決の確定により上記各小学校の補助教材に関する帳簿等の開示を受けることができました。
 また、私どもは平成12年11月17日、岡山市内の全公立中学校の補助教材の使用に関する伺い書等並びに帳簿、通帳及び伝票の開示を請求していたところ、上記判決の確定により、これらの文書の開示も受けることができました。
 
 上記の裁判の過程で判明した事実及び開示された文書の分析によって岡山市内の公立小中学校の補助教材に関し様々な問題点が判明しましたので、貴委員会に対し問題点を認識していただき、是非とも改善をしていただきたく別紙のとおり申し入れます。

1 判決が認めた事実及び法的評価の要旨
(1) 当該各小学校の校長は、岡山市教育委員会に対し学校で使用する補助教材について承認を受け、又は届出をする。

(2) 各小学校は学用品、制服・体操服、校章等を「購買」、「販売所」、「分配所」と呼ばれる校内の施設(以下単に「購買」という。)において販売する業務を購買担当者(私人)に委嘱しているが、補助教材については、教員が保護者より集金し購買担当者を通じて教材販売業者に対し代金の支払いをしている。

(3) 補助教材や学用品等を児童や保護者に販売することによって得られた利益は校長の管理する預金口座に保管され、購買担当者に対する報酬の外学校の環境整備等に使用されている。

(4) 補助教材に関する帳簿、伝票は種類に応じ学年主任等の教師と購買担当者により保管されている。

(5) 採択した補助教材について保護者が現実にこれを取得できるか否かは教育上重要な問題であり、教育的配慮から校長が集団的にこれを購入し販売することは、校長がその職務上行っている行為というべきである。

(6) 校長が、購買担当者を通じて、補助教材を集団的に購入して販売し、その利益を児童の観劇や校内の環境整備等に用いるという補助教材をめぐる一連の事務についても、教育委員会の管理権が及んでいるというべきである。

(7) 補助教材関連文書は、校長が他の教員や購買担当者を通じて職務上作成ないし取得し、組織的に管理しているのであるから、教育委員会は管理権に基づいて校長に対し引渡を求める権限がある。

2 公文書の開示を受け、その分析の結果判明した事実
(1) 教育委員会規則によると補助教材の使用に当たり、各学校は「あらかじめ教育委員会に届け出る」となっているにもかかわらず、届出書や承認伺い書の届出が補助教材使用後になっているものが相当数存在した。

(2) 中学校の補助教材について、年間55種類ものドリル類を使用している学校(高島中学校3年生)や、購入費用について、年間少ない学校で16,140円(岡山中央中学校3年生)、多い学校で29,185円(光南台中学校3年生)と学校間の格差があり、また、相当高額になっている。

(3) 補助教材については、「購買」における物品の受け渡しは全くなされていないにもかかわらず、保護者に対する販売価格と業者の納入価格との差額(納入価格の2〜5パーセント)がリベートとして「購買」に留保されている。

(4) 補助教材の外にも学用品、制服・体操服等ほとんど全てにリベートがついており、「購買」において物品の受け渡しが全く行われていない新入生の一斉購入品などにもリベートがつき、「購買」に留保されている。

(5) 少数の学校を除き、「購買」の会計帳簿の整備がなされておらず、担当者以外にはその内容を理解するのが困難なものや金銭の使途が明確に記載されていないものがあり、また帳簿が1〜2年で廃棄されている学校がある。
 また、帳簿上「教頭へ」等との記載があり、リベートの一部が「購買」以外の管理下に移り、使途の把握できないものもある。

(6) 補助教材や学用品等のリベートは「購買」に留保され、校内環境整備費、学校集金(補助教材費、給食費)の未収分の補填等に使用されている。
 「購買」会計の繰越金が数百万円(鹿田小学校、吉備中学校)に及ぶ学校もある。

(7) 最近になって「購買」担当者を校長との雇用関係からPTA会長との雇用関係に改めるなどして、「購買」会計をPTAに移管した学校がある。

3 「購買」の問題点
(1) 「購買」に留保された金銭の使途からみると、「購買」が長年維持されてきた背景として、施設の軽微な補修費や備品の補充等の予算獲得が必ずしも迅速かつ十分でないとか、給食費や補助教材費などの学校集金について未収金が生じた場合の責任を校長が負うため集金の困難を別の資金で穴埋めする必要があったことなど、校長において教育予算の枠以外にある程度自由に使用できる金銭を保持しておく必要性があったものと推測できる。
 そのため、校長の私的な金銭なのか公的な金銭なのか性質のあいまいな金銭が「購買」会計として学校内に留保されてきたと考えられる。

(2) 補助教材や学用品・制服等保護者において選択の余地なく購入せざるを得ない物品の販売リベートを校内環境整備費に使用することは、岡山市義務教育に関する費用の税外負担を禁止する条例に違反するものと考えられる。
 また、学校集金の未収分の補填に使用することは一部保護者の正当な理由のない不払いを追認するものであり、保護者間の不公平を招くものであ。

(3) 地方公務員法第38条1項は、「職員は任命権者の許可を受けなければ自ら営利を目的とする私企業を営んではならない。」と定めており、仮に校長が個人的に「購買」事業を営むのであれば任命権者の岡山県教育委員会の許可を受けなければ地方公務員法違反となるが、今回の判決において、裁判所は、「購買」の事業は校長の職務上の行為(公務)であり、貴委員会の管理権が及ぶべきものであると判断した。
 「購買」事業の実体が公務であれば、管理権者である貴委員会が予算・決算等会計の管理、「購買」担当者の人事管理を行わなければならない。
 しかし、現状は、「購買」の会計帳簿の作成、保管について何らルールがなく、私人である「購買」担当者任せとなっており、公金の使途についても貴委員会のチェックがなされていない状態である。

(4) 最近、「購買」事務をPTAに移管した学校があり、あるいは近く移管しようとしている学校があるが、上記のとおり、「購買」事務は公務であり、これまで留保された金銭は公有財産であるから、議会の承認なく民間の任意団体に金銭の所有を移す行為は地方自治法第237条に違反することになる。
また、表面的にはPTAに移管した形を取っているものの、PTA会員には「購買」会計を全く公開せず、引き続き校長・教頭において「購買」に留保された金銭を管理するというごまかしを行っている学校もある。

4 申入事項
(1) 補助教材の選定・採用に当たっての配慮
教育委員会規則では、補助教材の使用に当たって各学校はあらかじめ教育委員会に届けることとなっているが、提出の日付が使用後となっているものが相当数存在する。補助教材の使用について教育委員会規則に基づいて実施するよう各学校を指導していただきたい。
補助教材の60〜70パーセントは練習帳や問題演習のためのドリル類(プリント)であり、1年間にこれらを55種類も使用している学校があることは上記のとおりである。
 このように多くのドリルを生徒に使用させることが補助教材の本来の目的に合致しているのか疑問がある。選定・採用に当たっては各学校で慎重な配慮がなされるよう指導するとともに、貴委員会に届出のあった補助教材の内容を十分に検討願いたい。

(2) 保護者負担の軽減
生徒一人当たり年間約1万円〜3万円の補助教材購入費用を保護者が負担しているが、保護者は子どもの義務教育期間中、選択の余地なくこれらの教材費を負担せざるを得ないのであり、義務教育無償化の精神から見て高額の補助教材費の負担は問題がある。
中学生の保護者は給食費の外に諸経費として毎月4,000円〜5,000円を学校に納めなくてはならないのが実情である。
 保護者の負担の軽減に取り組んでいただきたい。

(3) 販売担当者の人事管理
 補助教材の採用については、教育上の必要性、保護者の経済的負担等を考えると慎重な配慮がなされるべきであるが、採用した補助教材について保護者が現実にこれを取得できるか否かが教育上重要な問題であり、教育的配慮から校長が集団的にこれを購入し、販売することは、校長がその職務上行わなければならない行為であるとすれば、少なくとも補助教材の販売事務については貴委員会の責任において担当者の人事管理を行うべきである。
 また、仮に、学用品、通学服・体操服等について学校が制服を定め、認定の品を使用するよう指定を行い、その購入事務を校長が職務上行わなければならないのであれば、補助教材と同様に担当者の人事管理を教育委員会において行うべきであるとも考えられるが、そもそも学校が、制服を定め、認定の品を使用するよう指定を行うことは、児童生徒の表現の自由、保護者の教育の自由、義務教育の無償化等の精神に反すると思われ、保護者の負担増にもつながるので、それらを購入するか否かは保護者の判断によることを明確にするなど慎重な配慮が必要である。

(4) 「購買」会計の管理
「購買」に留保された金銭は公有財産であるので、速やかに各小中学校の「購買」会計を調査し、その実情を把握し、「購買」に留保された公金を貴委員会の管理下に置くように対処されたい。
最近「購買」事務をPTAに移管した学校があるが、これまで「購買」に留保された金銭は公有財産であるから、議会の承認なく金銭の所有を移すことはできず、移管は無効であり、早急に貴委員会への返還を求めるべきである。

(5) 「購買」の廃止
当面貴委員会が早急に「購買」会計を管理下に置くことはまず必要としても、将来にわたって教育委員会が物品の販売を通じて利益を得る事業を学校内の施設において営むことは問題である。補助教材の受け渡しを公務と位置づけ、業者からのリベートを一切受け取らないのが本来の姿であると考えられるので、「購買」はその存在意義がなく廃止されるべきものと考える。
また、仮に、PTA等により学用品等の販売を行う事業を営むことが計画されるとすれば、児童生徒の便宜のため鉛筆・ノート類をリベートなしで販売するというのであればともかく、現在と同様に販売によってリベートを得るならPTAが学校の施設を利用して営利事業を営むこととなり、PTAの目的に反すると思われ望ましくない。

(6) 予算措置の柔軟化と学校集金の改善
 「購買」が長年維持されてきた背景が上記3(1)の事情によるものであることを考慮すると、貴委員会としては、各学校の必要に応じた柔軟な予算措置を講じ、また、学校集金事務の責任を校長ではなく、教育委員会又は市長部局において負担するようにシステムを変更し、改善を図るべきである。
                                                                      以上