訴  状 (日本語版)

これは平成12年10月2日,岡山地方裁判所に提出した,「下水道水増し」についての損害賠償などを求める裁判の訴状の「日本語訳」版です。(裁判所で使われる日本語は,ふつうの日本語ではないので,翻訳しないと,意味が通じないのです。)

裁判の請求の内容
1.岡山市長が,50人の元・現職員に対して,合計16億1258万7000円の損害賠償請求を怠っていることが,違法であることを確認する。
2.現市長は岡山市に対し,1億1435万1000円を支払え。
3.49人の元・現職員(前市長を含む)は岡山市に対し,それぞれ責任を負うべき地位にいた期間に応じて,総額16億1258万7000円を支払え。

その理由
1,事件の性質
 岡山市では,昭和45年度から平成10年度までの29カ年度にわたって,国に対して下水道利用人口を過大に報告しており,それによって普通交付税を過大に交付させていた。平成11年右事実が発覚し,自治大臣は平成11年9月16日,これを「作為により虚偽の報告を行っていた」ものと認定し,岡山市に対し,右29カ年度分の過大に交付された普通交付税19億8481万
7000円とこれに対する加算金21億2248万7000円,合計41億0730万4000円の支払を命じた。 岡山市は右命令に従ってこれを国に対して支払ったが,岡山市長はこれによって岡山市が被った損害の賠償請求を全く行わなかった。原告ら(オンブズマン)は,岡山市監査委員に対して住民監査請求を行ったが棄却された。

 そこでこの裁判を提起した
2,当事者
 損害賠償を請求する相手は,
・ 現岡山市長,
・ 前岡山市長,
・ 昭和56年度から平成10年度までの間に,財政局担当助役,下水道局担当助役,財政局長,下水道局長,財政局財務部長 ,同財政課長,下水道局管理部長,同建設部長,同総務課長,同計画課長などの地位にあった人48人,である。

3,「下水道水増し」問題の発覚と結果
(1)問題の発覚
 岡山市は,平成11年5月24日,従前公表していた下水道普及率の数値(平成9年度の数値にして50・5%)が誤りであり,正しくは36・3%であると公表した。 右の「水増し」は,それまで少なくとも約30年間にわたって行われてきたものであり,公共下水道の現在排水人口の数値として定住人口を使うべきところを,昼間人口などの「より大きな人口値」を使っていた。

(2)下水道利用人口と普通交付税との関係
 ・ 国から地方自治体にわたされる地方(普通)交付税は,各地方自治体の「基準財政需要額」と「基準財政収入額」にもとづいて,個々の自治体への交付額が決まる。「基準財政需要額」を計算するには,自治体がもっている公共施設の規模なども計算の基礎になる。
・公共下水道はこれらの公共施設のうちの一つである。公共下水道についての「基礎数値」には,「公共施設状況調査による公共下水道に係る現在排水人口」の数値が含まれている。
 従って,国に報告する「現在排水人口」の数次が過大だったら,自治体の「基準財政需要額」はその分だけ過大になり,国からわたされる普通交付税もその分だけ過大になる。
・「現在排水人口」は,下水道排水地域の定住人口(住民登録人口及び外国人登録人口)に基づいて計算することに決められている。岡山市は,昭和45年度から平成10年度までの間これに従わず,昼間人口など,決められた数字よりも大幅に多いウソの数字を資料に記載して,これを国に報告していた。

(3)自治大臣の返還命令と岡山市の普通交付税返還
 ・ 地方交付税法では,地方交付税の算定に用いる資料に「作為を加え,又は虚偽の記載をすることによって,不当に交付税の交付を受けた場合」には,直ちに超過額を返還させること,それに年10・95%の加算金を付加することが決められている。
・ 自治大臣は,平成11年9月16日,岡山市に対し,同市が昭和45年度から平成10年度までの間に,下水道現在排水人口の数値について『資料に作為を加え,虚偽の記載』をしていたという理由で,
この29ケ年度の間に「不当に交付を受けた普通交付税」19億8481万7000円と,
加算金21億2248万7000円,合計41億0730万4000円を返還することを命じた
・ 岡山市は同年9月28日,自治大臣が返還を命じた金額全額を,国に対して支払った。

3,「現在排水人口」の数字はどのようにして資料に記入されるか

(1)ある年度の年度末の公共下水道の現在排水人口は,翌年度に行われる公共施設状況調査で国に報告される。
 このとき,岡山市役所内部では,財政局財政課から下水道局総務課あてに調査表に記入して報告することを求め,総務課では下水道局計画課に対して調査表への記入を依頼していた。

(2)下水道局総務課では,財政課から報告依頼書(調査表つき)を受けとると,それをそのまま計画課にわたしていた。そして計画課が記載した調査表を,総務課長において正式に作成し,財政課長に報告していた。財政課長は,調査表をとりまとめて国に対し報告 していた。

(3)この調査表に記入された現在排水人口の数字は,その次の年度の普通交付税についての基準財政需要額の基礎数字として,そのまま使われるものであった。

(4)公共施設状況調査のときに財政課が下水道局にわたす書類には,数字が地方交付税の算定基礎として使われることがはっきり書かれている。一緒にわたされる調査表の記載要領には,現在排水人口の数字は,定住人口に基づいて記載することとはっきり書かれている。調査にあたって記入方法に「まちがい」が起きる余地は全然ない。
 だから,岡山市がやっていた,昼間人口などを使って現在排水人口を「算定」する方法は,明らかに「わざと」のものであり,「算定」された数値はウソのものである。

(5)だから,自治大臣が「作為」「虚偽」と認定してお金の返還を命令したのは,法律上当然のことだった。

4,市職員らの共同行為
  岡山市がしていたウソの数字の報告は,個々の担当者だけが「わざと」していたのではなく,市長以下,関係者全員が共同して行っていたものである。
 その根拠は,以下のとおりである。

(1)岡山市が公表していた下水道関係の数字のウソは単に普及率だけではなく,下水道の現在排水人口についても,市の刊行物で,水増しされた数字が公表されていた。

(2)公共施設状況調査で,現在排水人口の数字を記入した調査表を財政課に提出するのは下水道局総務課長だが,課長が決裁をするには課長補佐や係長と稟議をしており,計画課との合議もしたうえであった。

(3)平成3年12月24日に行われた岡山市議会本会議で,議員から,公表されている公共下水道の処理人口の中に約10万人の昼間人口が含まれていることが指摘された。また平成4年6月12日行われた同市議会建設委員会においても,同じ趣旨の指摘が行われた。
 市議会本会議には市長,助役,各局局長らが全て出席するから,これら市職員がこの時点で,岡山市の公表している公共下水道の現在排水人口の数値が大幅に水増しされていることを知っていたことは明らかである。

(4)平成11年9月,当時下水道局長であった被告○○○○は岡山市議会で,2年前の着任(平成9年4月1日)早々の時点で公共下水道の現在排水人口の数値に水増しがあることを知った,とはっきり言っている。

(5)そもそも,公共下水道などの公共施設の状況によって普通交付税にかかる基準 財政需要額の数値が左右されるということは,地方財政の基本知識であり,市の幹部職員がそれを知らないこと自体がありえないことである。

(6)岡山市内部では定期的に人事の移動が行われており,下水道局計画課と同局総務課の役職を歴任した者,あるいは下水道局と財政局財政課の役職を歴任した者が,課長補佐以上に限っても,4名存在している。

(7)以上の状況にもかかわらず,下水道局や財政局で,公共施設状況調査や基準財政需要額の算定基礎数値の報告のときに,下水道局計画課の報告に一度も疑いが出された形跡がない。
 しかも,基準財政需要額の算定基礎となる数字の報告については財政局長が決裁している昭和45年及び51年には市長が決裁している。

(8)以上の状況から考えれば,岡山市役所内部では,市長・助役以下,財政局・下水道局のほとんど全職員が,公共下水道の現在排水人口の数値に水増しがあり,その水増しされた数値をもとにして普通交付税の算定・交付がなされているということを,従前からよく知っていていたことは明らかである。

5 共同不法行為
(1)岡山市の市長以下の担当職員は,毎年度,全員共同して,公共下水道の現在排水人口についてわざとウソの数字を報告していたものである。

(2)自治大臣から支払を命令された加算金は,この共同不法行為の直接の結果として,岡山市が支払うハメになったものである。

(3)だから,各年度に,
・ 公共施設状況調査のときに,現在排水人口としてウソの数字を報告するのに直接かかわった,下水道局総務課長,同局計画課長,財政局財政課長,・ このときに,彼らを監督するべき立場にありながらこれを見すごした,市長 ,助役,財政局長,下水道局長,財政局財務部長,下水道局管理部長・建設部長・ 基準財政需要額の算定基礎の報告のときに,現在排水人口としてウソの数字を報告するのに直接かかわった財政局長,同局財務部長,財政課長,・ このときに,彼らを監督すべき立場にあり,またはウソの数字が報告されようとしていることを知っている立場にあって,これを見すごした,市長,助役 ,下水道局長,同局管理部長・建設部長・総務課長・計画課長,の各人は,連帯して,その行為のために岡山市に生じた損害を賠償すべき義務
がある。よって,各人,その責任のある時期に応じて,総額16億1258万7000円を支払え

6,岡山市長の怠慢と責任
(1)岡山市はその被った損害の賠償を,関係職員に対して請求する権利がある。これは岡山市の財産にあたる。

(2)岡山市長は,この損害賠償請求権の行使を怠っている。 原告らが所属する市民団体「市民オンブズマンおかやま」は,岡山市長に対して,平成11年9月27日及び11月4日の2度にわたり,事実の究明と,責任を負うべき者に対する損害賠償請求権の行使をするよう申入をし,さらに平成12年5月19日には質問書を提出したが,岡山市長は現在に至るまで事実調査や請求権の行使に着手しない。

(3)岡山市長のこの怠慢のために,昭和55年度分の普通交付税の過大受領分の返還に伴う加算金1億1435万1,000円の損害については,サボっている間に20年の期間が経過してしまい,岡山市はこの分の損害賠償請求ができなくなった。

(4)このまま請求権を行使せずに放置すれば,残りの債権についても20年の除斥期間が次々に経過するし,平成14年9月16日を経過すれば,岡山市が損害を知ったときから3年の時効期間が過ぎてしまうので,岡山市の損害賠償請求権は全部消滅してしまうことになる。
 従って,岡山市長が右請求権の行使を怠る行為は,岡山市の財産の管理を違法 に怠ることにあたる。

(5)現市長は,損害賠償請求権の行使をサボったために,岡山市に1億1435万1,000円の損害賠償請求権を失わせた。この怠慢は,わざとのものか,そうでないとしても重大な過失によるものなので,岡山市に対する不法行為にあたる。現市長は岡山市に対して,同金額の損害を賠償をするべき責任がある。

(6)よって,市長の怠慢が違法であることを確認するとともに,市長個人として岡山市に対して,1億1435万1000円を支払え。